口元を引っ込める「セットバック」のメリット/デメリット ―どんな人に向いている?
こんもりとした口元に、あこがれのすっきり感を出すにはどうしたらいい? 口元は出っ張りがあってもメイクで印象を変えることが難しく、コンプレックスになりがちなパーツの一つです。特に横顔は「見るのも見られるのも嫌!」とマスク依存症になってしまう人も……。そうしたときは、「セットバック」を検討してみてはいかがでしょうか。
第一印象で損をする!上下顎前突
口元にこんもり感があって、あごが小さく見えてしまう。これは上下の歯列が歯茎から前に出っ張っていて口を閉じにくい状態で、専門的には上下顎前突(じょうげがくぜんとつ)と呼ばれます。
上下顎前突があると、口を閉じたときに口角が下がったり、口をとがらせたりしているように見えるため、いつも不平不満があるように見えたり、わがままで頑固なイメージを持たれたりと、第一印象から損をしてしまうことがあります。また、実際よりも顔が大きく見えてしまったり、笑ったときに歯茎が大きく出てしまうガミースマイルや、あご先の梅干じわの原因になったりもするのです。
上下顎前突になる原因としては、遺伝や食習慣、生活習慣の影響などがあると考えられていますが、明らかにはなっていません。また、不正咬合(出っ歯、受け口、八重歯など)が原因で口元が突き出て見える場合もあります。
美容整形のセットバックってどんな施術?
セットバックは口元の小顔整形で、左右の4番目の歯(第1小臼歯)を抜歯してできたスペースを利用して、前歯6本を歯茎の骨ごと後方に押し下げる施術です。前歯6本をまとめて後方へ移動することで、口元のこんもり感を解消し、フェイスラインを整えることができます。
口腔粘膜を切開するので、顔の表面には何も傷が残りません。上あごのみの「上セットバック」、下あごのみの「下セットバック」、上下両方のあごに行う「上下セットバック」の3種類があり、施術方法は個々の状況やなりたいフェイスラインに応じて決定します。
前歯6本を後方へ移動したら、チタン製プレートで移動した骨を固定し、新しく隣り合った3番と5番の歯をスチール製ワイヤーで縛って固定します。チタン製プレートは歯茎で覆われて見えなくなるので、基本的には抜去せずにそのままでOK。
スチール製ワイヤーは表から見えますが、ワイヤー式の歯列矯正よりも目立たず、2~3か月で外すことができます。ワイヤーを外した後は、かみ合わせの調整や、新しく隣り合った3番と5番の歯の間のスペースを埋めるための歯科治療を行うことになります。
セットバックのダウンタイムは? 費用はどれくらい?
セットバックの施術時間はおおむね2時間半~3時間半で、全身麻酔下で行います。入院の必要はなく、当日帰宅することができますが、自宅が遠方であれば近くのホテルなどに宿泊するほうがいいでしょう。
経過観察や消毒、抜糸などのため、数日にわたる通院が必要だからです。個人差はありますが、大きな腫れや痛みは2~3日、赤みは7~10日程度で引くことが多く、ダウンタイムは10日~2週間が目安となります。
費用は150~200万円程度が中心で、全身麻酔(約15万円)やCT検査(約3万円)、血液検査(約1万5000円)などの費用が別途必要になることがあります。事前カウンセリングで提示されるので、しっかりと確認しましょう。
セットバックはどんな人に向いている?
セットバックは、上下顎前突などで口元の出っ張りがコンプレックスになっていて、骨格レベルでの改善を希望する人にお勧めの施術方法です。
どのレベルの出っ張りで施術を考えるべきなのかは迷うところですが、一つの指標として、「横顔美人」の基準とされるエステティックライン(Eライン)があります。Eラインはアメリカの矯正歯科医師が発表した横顔の美しさの基準で、顔を横から見たとき、鼻の先端とあごの先端を直線で結んだラインのことです。
このラインに唇が触れず、やや内側に唇が入る状態が理想的とされています。日本人の場合、唇が軽く触れるくらいが平均的といわれているので、Eラインが口元のすっきり感を客観的に判断する参考になるかもしれません。出っ歯などの不正咬合であれば、歯列矯正でフェイスラインを変えることができるケースもありますから、矯正歯科で専門医と相談してから比較検討してもいいですね。
こんなにある!セットバックのメリット
・口角が上がって上品な口元になれる
上下顎前突があると、口を閉じたときに、どうしても口がとがりぎみになり、口角が下がります。いわゆる「への字口」になってしまうわけで、人相学的には不満を抱えていると判断されてしまいます。しかし、セットバック後には口角が上がって見えるようになり、温和で優しく、すっきりと上品な表情を手に入れることができます。
・小顔になれる
口元が出っ張っていると、横顔が長く大きく見えてしまいます。セットバック後は口元が後ろに下がるため、顔の前後の幅が短くなって小顔に見えるようになります。
・全身麻酔だから気付いたら施術完了
セットバックは、正式名称を「上顎および下顎の分節骨切り術(anterior segmental osteotomy;ASO)」といい、前歯6本分の骨だけを部分的に動かすため、上顎骨・下顎骨を全体に動かすLe Fort I(ルフォー1型)骨切り術+SSRO(下顎枝矢状分割術)などと比べて施術によるダメージが少ないことが特徴です。全身麻酔で行うため恐怖感を覚えることもなく、しかも日帰り可能です。
・短時間で終了するのに、効果は半永久的
歯列矯正を完了するには数年の年月がかかりますが、セットバック術は数時間で終了します。骨格レベルでの施術ですから、その効果は半永久的で、元に戻ってしまう心配はありません。
デメリットがあることも忘れないで!
・施術後の歯科通院が必要
抜歯が必須なため、新しく隣り合った3番と5番の歯に隙間ができてしまったり、かみ合わせの調整が必要となったりすることがあります。歯列矯正やセラミック補綴で対処します。
・思ったような変化が得られない場合も
元のフェイスラインや不正咬合(特に受け口の場合)の状態によっては、望んでいた変化を感じにくいケースがあります。事前のカウンセリングで納得できるまで話をするようにしましょう。
・ダウンタイムとは別に時間が必要となるケースも
比較的ダメージの少ない術式とはいえ、骨格レベルでの施術となりますから、急にかみ合わせが変わったことで一時的に発音がしにくくなることがあります。また、あごの知覚神経に影響が出てしびれ感が生じ、見た目には問題ないものの、感覚が完全に元に戻るまでに時間がかかることもあります。
・鼻翼幅や上口唇の形態に影響する可能性も
術式による影響で、鼻翼幅が広がったり、上口唇が薄くなったりすることがあります。もともと上口唇が厚い人には好影響ですが、唇が薄くなるとやや老けた印象になることもあるので、メイクの工夫が必要かもしれません。
セットバックを受ける際の注意点
・施術後しばらくは前歯で硬いものをかまない(推奨6か月間)
・施術後1か月間は強い鼻かみ、うがい禁止
・施術の前後1週間は禁煙
・施術前日・施術後1か月間は禁酒
・化粧は施術翌日から可能
・車やバイクの運転は施術後3日間は控える
・施術翌日は首から下のみシャワー浴、2日目からシャワー浴、3日目以降に入浴が可能
・ピル服用の場合、施術2週間前から中止、施術後1週間で再開
セットバックの施術を受けようと考えるなら、上下どちらかだけのセットバックでいいのか、上下セットバックにするのか、鼻とのバランスなど横顔のライン全体を見て選択する必要があります。また、セットバックよりも、歯列矯正やオトガイ(顎)形成のほうが理想や希望に近付く場合もあるため、自分に合った方法を見つけてコンプレックス解消を目指すことが大切です。まずはクリニックを訪ねて、専門医に相談するところから始めてみましょう。